AIは、社会保険制度を支えるのか。
- 12 分前
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前回は、社会保険料がこれからどこまで上がるのかを、人口構成や医療費のデータから考えてみました。
働く世代は減っていく。
高齢者は増えていく。
医療費も、長期的には増加傾向にあります。
今あるデータを見る限り、社会保障を支える負担が、近い将来に大きく軽くなるとは考えにくい状況です。
では、日本に打つ手はないのでしょうか。
そこで気になるのが、AIです。
AIによって一人当たりの生産性が向上すれば、働く人が減っても、社会全体で生み出す価値を維持できるかもしれません。
そう考えると、AIは単なる便利な道具ではなく、人口減少社会を支える技術になる可能性があります。
ただし、話はそれほど単純ではありません。
AIによって生産性が上がる一方で、雇用や賃金が減れば、給与を基礎として保険料を集める現在の社会保険制度には、むしろ逆風になることも考えられるからです。
AIは社会保険制度を支えるのか。
それとも、現在の制度を変える側に回るのか。
今回は、その両面から考えてみます。
働く人は、これからも減っていく
まず前提として、日本の生産年齢人口は今後も減少していくと見込まれています。
これは、単に「人手不足がしばらく続く」という話ではありません。
会社が採用を頑張れば、どこかから人が湧いてくるわけでもない。
限られた働き手を、多くの会社が取り合う状態が続くということです。
これまでの会社経営では、
仕事が増える。
人を採る。
教育する。
さらに仕事を増やす。
という流れが、比較的自然な成長モデルでした。
しかし、働く人そのものが減っていく社会では、同じやり方を続けることが難しくなります。
OECDも、日本では働く世代の縮小に対応するため、生産性の向上に加え、女性の就業拡大、外国人材の活用、デジタル化などを同時に進める必要があると指摘しています。
そこで必要になるのが、
人を増やさなくても、できる仕事を増やすこと
です。
AIへの期待は、ここから始まります。
外国人材が増えれば、解決するのか
働く人が減るのであれば、外国人材を増やせばよい。
そう考えるのも自然なことです。
実際、2025年10月末時点で、日本で働く外国人労働者は約257万人となり、過去最多を更新しました。
外国人を雇用する事業所も約37万か所に増えています。
製造。
建設。
介護。
物流。
宿泊。
外食。
多くの現場で、外国人材はすでに欠かせない存在です。
社会保険の加入要件を満たせば、日本人と同じように保険料を負担します。
その意味では、外国人材の増加は、社会保険制度を支える力にもなります。
ただ、それだけで人口減少の問題が解決するわけではありません。
これからは、日本が外国人材を選ぶ時代ではなく、外国人材から日本が選ばれる時代になるからです。
円安になると、日本で働く魅力も下がる
外国人材にとって、日本で働く目的の一つは収入です。
日本で得た給与を母国へ送金する人も少なくありません。
ところが円安が進むと、同じ30万円を稼いでも、母国通貨に換算したときの価値は下がります。
日本銀行の実質実効為替レートを見ると、2020年を100とした指数は、2026年6月には65.3まで低下しています。
円の国際的な購買力が、長期的に大きく下がっていることが分かります。
もちろん、外国人材が日本を選ぶ理由は賃金だけではありません。
治安。
生活環境。
教育。
医療。
働きやすさ。
母国との距離。
さまざまな要素があります。
それでも、賃金の相対的な魅力が下がれば、働く国としての競争力が落ちることは避けにくいでしょう。
さらに、アジア各国の経済や賃金水準も上がっています。
日本だけが突出して高い給与を得られる国ではなくなりつつあります。
今後は、
「日本で働けます」
だけでは十分ではない。
「この会社で働きたい」
と思ってもらえる賃金、職場環境、生活支援まで問われるようになるのだと思います。
外国人材の受入れは重要です。
しかし、人数を増やせばすべて解決するというほど、簡単な話でもありません。
AIが変えるのは、仕事より「作業」
AIの話になると、
「仕事がなくなる」
という議論がよくあります。
もちろん、その影響はあるでしょう。
ただ、最初に大きく変わるのは、仕事そのものよりも、仕事の中に含まれる作業ではないでしょうか。
情報を整理する。
数字を照合する。
文章をまとめる。
大量の資料から必要な情報を探す。
決められた形式に変換する。
こうした作業は、多くの会社に存在します。
一つひとつは小さくても、会社全体で見ると、相当な時間が使われています。
ILOの2025年の分析では、世界の労働者のおよそ4人に1人が、生成AIの影響を受ける可能性のある職業に就いています。
一方で、人の関与が引き続き必要なため、多くの仕事は消滅するというより、内容が変わる可能性が高いとされています。
AIが仕事を丸ごと奪う。
というより、
仕事の中にある定型的な作業を引き受ける。
その結果、人が使う時間の中身が変わる。
実際には、そこから始まるのだと思います。
一人が生み出す価値が増えれば、制度を支える力も増える
AIによって一人当たりの生産性が上がれば、同じ人数でも、より多くの付加価値を生み出せる可能性があります。
これまで3人で行っていた仕事を、AIを使って1人か2人で行えるようになる。
そこで生まれた時間を、
顧客対応。
商品開発。
営業。
人材育成。
経営改善。
に使う。
その結果として会社の利益が増え、賃金も上がる。
この流れが実現すれば、働く人の数が減っても、社会保険制度を支える経済力を維持できる可能性があります。
社会保険料は、主に給与や報酬を基礎として計算されます。
人数が減ったとしても、一人当たりの生産性と賃金が上がれば、保険料収入の減少をある程度補えるかもしれません。
つまり、AIが社会保険制度を支えるとすれば、AIそのものが保険料を払うからではありません。
人と会社が生み出す付加価値を増やすことで、間接的に支える
ということになります。
ただし、生産性が上がれば賃金も上がるとは限らない
ここが難しいところです。
AIによって会社の利益が増えても、それが働く人の賃金として分配されるとは限りません。
少ない人数で多くの仕事ができるようになれば、雇用者数が減る可能性もあります。
利益は増える。
しかし、給与総額は増えない。
ということも起こり得ます。
そうなれば、社会全体では豊かになっても、給与を基礎として集める社会保険料は、思ったほど増えません。
経済が成長することと、
現在の社会保険制度がそのまま安定することは、
必ずしも同じではないのです。
AIが広がれば、将来は、給与だけでなく、企業利益や資本所得を含めて、社会保障の財源をどう負担するかという議論も避けられなくなるでしょう。
AIだけで解決するわけではない
人口減少への対応は、どれか一つを選ぶ話ではありません。
外国人材を受け入れる。
女性や高齢者が働きやすい環境をつくる。
賃金や職場環境を改善し、日本や会社そのものが選ばれる存在になる。
人がやらなくてもよい作業をAIに任せる。
そして、一人当たりの付加価値を高める。
これらを同時に進める必要があります。
外国人材が増えれば、すべて解決するわけではない。
AIを入れれば、すべて解決するわけでもない。
しかし、働く人が減っていく中で、これまでと同じ人数依存の経営を続けることも難しい。
そこは、かなりはっきりしています。
社会保険制度を支えるのは、「人数」だけではなくなる
これからの会社経営は、
何人採用できるか。
だけではなく、
一人がどれだけ価値を生み出せる会社をつくれるか
が、より重要になっていくのだと思います。
AIは、社会保険料を直接払ってくれるわけではありません。
外国人材だけで人口減少を埋められるわけでもありません。
それでも、
いまいる人が、もっと力を発揮できるようにする。
日本で働く人が、ここで働き続けたいと思える環境をつくる。
人がしなくてもよい作業を、AIに任せる。
そうして、一人当たりの付加価値を高める。
AIは社会保険制度を直接支えるものではなく、
社会保険制度を支えられる経済を維持するための技術
なのかもしれません。
人口が減ること自体は、簡単には変えられません。
けれど、一人が生み出す価値は、まだ変えられる。
円安や人材不足のデータを見ていると、これからの経営は、そこに向き合うことになるのだと思います。
