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コラム

身近な労務に関すること

会社の成長は、これから二つの方向に分かれていくのか。

8月30日
読了時間: 5分

「会社が成長する」と聞くと、どんな姿を思い浮かべるでしょうか。


売上が増える。社員が増える。オフィスや拠点が増える。


これまで、会社の成長と「規模が大きくなること」は、かなり近い意味で考えられてきたように思います。


実際、大きな会社には強みがあります。多くの人材を採用でき、専門部署をつくることができる。設備やシステムに投資でき、研究開発にもお金を使える。


データを見ても、平均的には大企業の方が労働生産性は高くなっています。


一方で、2026年版中小企業白書を見ると、中小企業の中にも高い労働生産性を実現している企業があり、生産性上位の企業群は大企業の中央値を上回っています。


つまり、小さいことと、生産性が低いことは同じではありません。


そして今、この関係を少し変えるかもしれないものが出てきました。


AIです。


人数は少ない。でも、使える頭脳まで少ないとは限らない

これまで、小さな会社には構造的な弱点がありました。


経営について考える人、データを分析する人、システムに詳しい人、文章を書く人、マーケティングを考える人。


大きな会社なら、それぞれの専門家を社内に置くことができます。


10人、20人の会社では、そうはいきません。一人の人がいくつもの仕事を兼任し、分からないことがあれば自分たちで調べながら進める。


会社の規模によって、使える「頭脳」にも差があったわけです。


ところが、AIによってこの前提が変わり始めています。


OECDが7か国5,000社超の中小企業を調査したところ、生成AIを利用している企業の65.1%が、従業員のパフォーマンス向上につながったと回答しています。


また、日本ではスキル不足を経験している生成AI利用企業の63.3%が、生成AIによってその不足を補うことができたと回答しています。


これまでなら大きな組織でなければ持ちにくかった知的能力の一部を、小さな会社でも利用できるようになってきました。


人数は少ない。でも、使える頭脳まで少ないとは限らない。


これは、小さな会社にとって大きな変化なのかもしれません。


AIを使えば、生産性は上がるのか

ただ、AIを導入すれば、それだけで会社の生産性が上がるわけではありません。


2026年版中小企業白書には興味深いデータがあります。


2019年以降、「成長に向けたAI活用」に取り組んだ中小企業と、そうでない企業について、2019年から2024年までの付加価値額の変化を比較したものです。






AI活用に取り組んだ企業 +23.0%取り組んでいない企業  +17.9%

出典:中小企業庁「2026年版中小企業白書」


AI活用に取り組んだ企業の方が、付加価値額の伸びは大きくなっています。


もちろん、この数字だけを見て「AIを使ったから成長した」と考えることはできません。もともと新しい技術に積極的な会社ほど、設備投資や人材育成などにも積極的だった可能性があるからです。


それでも、AI活用と企業の成長との間に一定の関係が見え始めていることは、興味深いところです。


「AIを使っている」の中身は同じではない

では、実際に企業はAIを何に使っているのでしょうか。


東京商工会議所が中小企業を対象に行った調査では、生成AIを利用している企業の用途で最も多かったのは、「コンテンツ作成・校正(社内外向け文書、メール・挨拶文等)」で63.8%でした。


もちろん、これもAI活用です。


メールを書く時間が短くなれば、その分ほかの仕事に時間を使えます。検索や情報収集にAIを使うことにも意味があります。


ただ、それだけでは仕事の仕組みそのものは、それほど変わりません。


メールを5分で書く。


便利にはなりますが、本当に生産性を大きく変える可能性があるのは、その先ではないでしょうか。


OECDの調査でも、生成AIを利用している中小企業のうち、会社の中核的な業務で利用している企業は29%にとどまっています。


AIを使うことと、AIによって仕事そのものを変えることは、少し違います。


AIを使う会社ではなく、仕事を変える会社

情報を探し、整理し、判断材料をつくり、書類をつくり、確認して、次の仕事につなげる。


こうした一連の仕事を、AIがあることを前提に組み直してみる。


「この作業をAIにやらせよう」だけではなく、「そもそも、この仕事は今までと同じやり方でいいのだろうか」と考える。


ここまで来ると、AIは単なる便利な道具ではなく、会社の仕事のつくり方そのものを変えるものになります。


ところが、小さな会社ほど、ここに難しさがあります。


人手が足りず、日々の仕事に追われている。AIに詳しい人材も少なく、新しいやり方を試す時間を確保することも簡単ではありません。


忙しいからAIを使いこなす時間がない。AIを使いこなせないから仕事のやり方が変わらない。そして仕事のやり方が変わらないから、さらに忙しくなる。


逆に、AIを使って仕事そのものを変えられた会社には余裕が生まれ、その余裕を使って、さらに仕事を改善できるようになるかもしれません。


AIは、大企業と中小企業の差を縮めるかもしれない。一方で、AIを使いこなせる会社と、そうでない会社の差を大きくするかもしれません。


「大きくて強い」と「小さくても強い」

もちろん、これから大きな会社が不利になるという話ではありません。


大企業もAIを使います。豊富な資金、人材、データ、設備とAIを組み合わせれば、さらに生産性を高める会社も出てくるでしょう。


一方で、小さな会社にも、これまでとは違う成長の道が見えてきました。


人を増やし、拠点を増やし、規模を大きくすることで強くなる会社。


そして、規模をそれほど大きくせず、AIやシステムを使いながら、一人ひとりが生み出す価値を高めることで強くなる会社。


少人数・高生産性・高収益・高待遇。


生産性を上げる目的は、人を減らすことではありません。


一人ひとりが生み出す価値を高めることで、給与を上げる。


労働時間を短くする。教育や設備に投資する。


そして、さらに良い人材が集まる会社にする。


小さいけれど、価値が凝縮されたダイヤモンドのような組織です。


AIによって、そんな会社をつくれる可能性は以前より高くなったのかもしれません。


ただし、AIを持っているだけでは何も変わりません。


検索に使う。メールを書く。そこからもう一歩進んで、AIを前提に会社の仕事そのものを組み直せるか。


これから問われるのは、「AIを使っている会社かどうか」ではなく、そこなのだと思います。


「どこまで大きくするか」だけではなく、「どんな強さを持つ会社にするか」。


会社の成長は、これから少しずつ、二つの方向に分かれていくのかもしれません。


 
 
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