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コラム

身近な労務に関すること

社会保険料は、これからどこまで上がるのか。

  • 7月21日
  • 読了時間: 10分

社会保険料の通知を見て、


「ずいぶん高くなったな」


と思ったことのある経営者は、少なくないと思います。


会社が納める社会保険料は、給与明細に表示される本人負担分だけではありません。ほぼ同じ金額を会社も負担して

います。


従業員の給与を上げれば、社会保険料も増える。


賞与を出せば、そこにも社会保険料がかかる。


利益が増えていないのに人件費だけが上がっていくと、その重さは、想像していた以上のものになります。


そこで気になるのが、


社会保険料は、これからどこまで上がるのか。


ということです。


未来を正確に言い当てることはできません。


ただ、過去から現在までのデータを並べると、少なくとも「どちらの方向に進んでいるのか」は、ある程度見えてきます。


今回は、社会保険料、人口、出生率、寿命、医療費、そして世界の年金制度を順番に見ながら考えてみます。


社会保険料は、実際に上がってきた

まず、厚生年金保険料率の推移を見てみます。


2004年の厚生年金保険料率は13.934%でした。その後、毎年段階的に引き上げられ、2017年に18.3%へ到達しました。現在は、この18.3%で固定されています。


労使折半ですから、本人と会社が原則として9.15%ずつ負担します。


厚生年金保険料率の推移





厚生年金だけを見ると、2017年以降は上がっていません。


それなら、社会保険料の負担も落ち着いたのではないか。


そう考えたくなります。


ところが、実際に会社が負担するのは厚生年金だけではありません。


健康保険、介護保険、雇用保険、労災保険があります。さらに2026年度からは、医療保険料とあわせて徴収される子ども・子育て支援金制度も始まっています。


つまり、厚生年金保険料率が固定されたことと、社会保険料全体の負担が今後増えないことは、同じではありません。


一つの保険料率が止まっても、社会保障制度全体に必要な費用が増えれば、別の場所で調整が行われる可能性があります。

社会保険料について考えるときは、一つの制度だけではなく、社会保障全体を見る必要があります。


30年前と現在では、人口の形が違う

次に、人口構成を見てみます。


1995年、日本の15歳から64歳までの生産年齢人口は、総人口の約7割を占めていました。65歳以上の割合は、約15%でした。


それから約30年。


2024年の15歳から64歳人口は7,372万8,000人で、総人口の59.6%です。一方、65歳以上人口は3,624万3,000人で、29.3%となりました。


おおまかに言えば、30年前は7人に1人ほどだった65歳以上の人が、現在は3人から4人に1人になっています。


日本の年齢別人口割合の推移



人口構成の変化は、ゆっくり進みます。


そのため、毎日の生活の中では見えにくい。


けれど30年という単位で並べると、社会の土台そのものが変わっていることが分かります。


社会保険制度は、単純に言えば、働いている人や会社が納める保険料を大きな財源として、年金、医療、介護などを支える仕組みです。


支える側の人口が減り、給付を受ける可能性の高い年齢層が増える。


この構造が続くなら、社会保障に必要な費用をどこから調達するかという問題は避けられません。


保険料を増やすのか。


税金を増やすのか。


給付を抑えるのか。


自己負担を増やすのか。


支給開始年齢などの制度を変えるのか。


実際には、これらを少しずつ組み合わせることになるのでしょう。


ただ、いずれの方法を選んでも、負担そのものが消えるわけではありません。


少子化は、すでに起きていること

人口を考えるとき、もう一つ見ておきたいのが出生率です。


合計特殊出生率は、一人の女性が生涯に産む子どもの数に相当する指標です。


日本では1995年に1.42、2005年には1.26となりました。2015年には1.45まで回復しましたが、その後は再び低下し、2024年は1.15となっています。


日本の合計特殊出生率の推移




少子化対策は重要です。


ただ、仮に来年から出生数が大きく増えたとしても、その子どもたちが就職して社会保険料を納めるようになるのは、20年ほど先です。


少子化対策には、時間がかかります。


これは政策が成功するかどうかとは別の問題です。


人口には年齢があり、人が一人前になるまでの時間を短縮することはできません。


出生率が改善すれば、長期的には社会を支える力になります。


しかし、今後10年ほどの社会保障財政を、出生率の改善だけで支えることは難しい。


少子化は「将来起こる問題」ではなく、すでに現在の労働力人口に入り始めている問題なのだと思います。


厚生労働省は人口動態統計で出生数や出生率の年次推移を公表しており、2024年についても出生数の減少と低い出生率が確認されています。


長生きできる社会になった

人口の話では、少子化ばかりに目が向きがちです。


しかし、もう一つ大きな変化があります。


寿命が延びたことです。


1995年の平均寿命は、男性が約76.4年、女性が約82.9年でした。


2024年には、男性が約81.1年、女性が約87.1年になっています。


この30年で、男女とも平均寿命は4年以上延びました。


日本の平均寿命の推移



長生きできるようになったことは、社会の進歩です。


昔なら治療が難しかった病気を治せるようになり、がんや心疾患などを抱えながら生活を続けられる人も増えました。


高齢になってからも、元気に働き、旅行や趣味を楽しむ人が増えています。


これは、本来とても喜ばしいことです。


ただし、社会保障という視点から見ると、別の面もあります。


長生きする人が増えれば、年金を受け取る期間も長くなります。


医療を受ける期間も長くなります。


介護を必要とする期間が生じる可能性も高くなります。


そして、医療技術の進歩には費用がかかります。


新しい薬、精密な検査、高度な手術、医療機器、再生医療。


以前は治療できなかった病気を治せるようになる一方で、治療の選択肢が増えれば、医療費が増える要因にもなります。


平均寿命に関する厚生労働省の生命表では、年齢別の平均余命や国際比較も公表されています。


国民医療費は、30年で大きく増えた

実際、国民医療費は長期的に増えています。


1995年度は約27兆円でした。


2005年度には約33兆円、2015年度には約42兆円となり、2023年度には約48兆円に達しています。


単純比較では、30年弱で約1.8倍です。


国民医療費の推移




もちろん、医療費が増えた理由を、すべて高齢化や医療技術の進歩だけで説明することはできません。


人口、物価、診療報酬、疾病構造、受診行動など、さまざまな要因があります。


それでも、


  • 高齢者の割合が増えている

  • 寿命が延びている

  • 治療できる病気が増えている

  • 高度な治療や薬が登場している


という流れを考えると、医療費が自然に大きく下がっていくとは考えにくいところがあります。


厚生労働省の2023年度国民医療費統計には、国民医療費の年次推移だけでなく、年齢階級別の医療費や一人当たり医療費も掲載されています。


医療の発達によって、私たちは長く生きられるようになりました。


その恩恵は、数字では表しきれません。


一方で、その社会を維持するには費用がかかる。


社会保険料の上昇は、単に「国が取りすぎている」という一言だけでは説明できない、もう少し複雑な話なのだと思います。


世界の年金制度も、同じ問題に向き合っている

少子高齢化と年金の問題は、日本だけのものではありません。


多くの先進国で出生率が低下し、平均寿命が延びています。


そのため各国では、


  • 年金の支給開始年齢を引き上げる

  • 保険料や拠出額を見直す

  • 給付額の伸びを調整する

  • 私的年金の利用を促す

  • 高齢者の就業を進める


といった改革が行われています。


OECDの『Pensions at a Glance 2023』でも、人口高齢化によって現役世代に対する高齢者の割合が上昇し、多くの国で年金制度の持続可能性が課題になっていることが示されています。


年金には、その国の歴史があります。


税金を中心に給付する国もあれば、保険料を中心にする国もあります。


積立方式の比重が大きい国もあれば、現在働いている世代の負担によって現在の受給者を支える仕組みを中心とする国もあります。


したがって、ある国の保険料率だけを取り出して、日本より高い、低いと比べても、全体像は分かりません。


税負担、医療制度、私的年金、給付水準、支給開始年齢まで含めて見る必要があります。


ただ、多くの国に共通していることがあります。


長寿化と少子化が同時に進めば、何らかの調整が必要になる。

ということです。


負担を増やさず、給付も減らさず、支給期間も長いままにする。


経済がそれ以上の速さで成長しない限り、そのすべてを同時に実現するのは難しくなります。


日本だけが特別に苦しいというより、日本は多くの国がこれから本格的に直面する問題を、少し先に経験しているのかもしれません。


AIは、この構造を変えるだろうか

ここまでのデータを見ると、社会保険料の負担は今後も増えやすいように見えます。


ただし、未来には別の変数もあります。


その一つがAIです。


AIによって一人当たりの生産性が高まり、少ない人数でも大きな付加価値を生み出せるようになれば、生産年齢人口が減っても、社会保障を支える経済力を維持できる可能性があります。


一方で、AIによって雇用の形が変わり、会社員が減り、業務委託や個人単位の働き方が増えれば、会社員を中心に組み立てられてきた社会保険制度にも見直しが必要になるかもしれません。


AIが社会保険料を直接下げるわけではありません。


けれど、


減っていく働き手を、技術がどこまで補えるのか。


という点では、社会保障制度の将来と無関係ではありません。


ただ、この部分については、人口や医療費ほど長期間のデータがありません。


期待もありますし、予想外の変化もあるでしょう。


AIと社会保険制度の関係については、次回、もう少し丁寧に考えてみたいと思います。


データを並べると、見えてくるもの

ここまでの数字を並べると、次のようになります。


厚生年金保険料率は、2004年以降、段階的に引き上げられました。


生産年齢人口は減少しています。


65歳以上人口の割合は上昇しています。


出生率は低い水準にあります。


平均寿命は延びました。


国民医療費は長期的に増加しています。


そして、少子高齢化に伴う年金制度の見直しは、世界各国でも進められています。


このデータから、


「社会保険料は必ず何%まで上がる」


と予測することはできません。


厚生年金保険料率は現在18.3%に固定されていますし、将来の負担が、すべて保険料の引上げとして現れるとも限りません。


税による負担が増えるかもしれません。


給付内容が変わるかもしれません。


自己負担割合や対象者の範囲が変わるかもしれません。


働く年齢が、さらに上がっていく可能性もあります。


したがって、正確には、


社会保険料がどこまで上がるかは分からない。けれど、社会保障を支えるための負担が大きく下がると考えられる材料も、今のところ多くはない。


ということになるのだと思います。


上がらないことを前提にしない

経営計画を立てるとき、大切なのは未来を完全に当てることではありません。


完全には分からない未来に対して、どの前提を置くかです。


社会保険料が下がることを前提にするのか。


現在と同程度で推移すると考えるのか。


それとも、人件費に対する法定福利費の割合が、少しずつ増える可能性も織り込むのか。


今あるデータを見る限り、少なくとも、


社会保険料や社会保障に関する負担が、近い将来に大きく軽くなることを前提に経営するのは、少し楽観的かもしれません。


だからといって、悲観する必要もないと思います。


人口構成が変わることも、保険料負担が重くなることも、多くの会社に共通する経営環境です。


環境そのものを嘆いても、売上や利益が生まれるわけではありません。


その環境の中で、どの仕事に人を配置するか。


どこを仕組み化するか。


どこに技術を使うか。


一人当たりの付加価値をどう高めるか。


人を増やすことと、会社を成長させることを、いつまで同じ意味として考えるのか。


社会保険料のデータを見ていると、最後には人事制度や経営の話に戻ってきます。


社会保険料が何%になるかという数字も、もちろん重要です。


けれど、それ以上に大切なのは、負担が増えても耐えられる会社をどうつくるか、ということなのかもしれません。


データは、未来の答えを教えてくれません。


ただ、何も見ずに歩くよりは、少し先の地形を見せてくれます。


その地形を見たうえで、どちらに進むのか。


経営は、たぶん、その判断の積み重ねなのだと思います。

 
 
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